「お墓を継ぐ人がいない」「遠方でなかなかお参りに行けない」といった理由から、墓じまいを考える方が増えています。
この記事では、墓じまいの全体像から具体的な手続き、費用、そしてよくあるトラブルを避けるためのポイントまでを、わかりやすく解説します。
墓じまいとは?
墓じまいとは、今あるお墓を撤去し、遺骨を別の場所に移すことです。近年、この選択をする人が増えている背景には、以下のような理由があります。
- お墓の継承者がいない
- 遠方でお墓参りが難しい
- 子どもに管理や費用の負担をかけたくない
こうした悩みを抱える方にとって、墓じまいは、無理なく供養を続けていくための手段のひとつです。
墓じまいによって「ご先祖様との縁を切る」わけではなく、これからの時代に合った新しい形で供養を続けるための、前向きな選択と言えるでしょう。
墓じまいと「改葬」の違い
「墓じまい」と「改葬(かいそう)」は、同じような意味だと思われがちですが、実は少し違います。
墓じまいは、お墓を片付けて更地にし、元の状態に戻すまでの一連の流れすべてを指す言葉です。
一方、改葬は、その流れの中で「ご遺骨を別のお墓や納骨先へ移す」ための手続きを指します。
このように、墓じまいという流れのなかに、改葬という大切な手続きが含まれている、と考えると分かりやすいでしょう。
墓じまいの流れ
墓じまいは、以下の流れで進めていくことが一般的です。
1.家族や親族に相談する
墓じまいを円満に進めるための、最も重要なステップとも言えるのが、家族・親族間での意見のすり合わせです。後々のトラブルを防ぐためにも、必ず事前に親族の理解を得ておきましょう。
2.新しい供養先を決める
基本的には次の納骨先が決まらなければ手続きを進められないため、新しい供養先を決めます。複数の選択肢を比較した上で決め、契約を済ませましょう。
ただし、一時的にご自宅で保管する「手元供養」を選択する場合は、納骨先が決まっていなくても、現在の墓地を更地にする手続きは可能です。
3.墓地の管理者に連絡する
お世話になった寺院や霊園に、墓じまいをしたい旨を伝えます。離檀料や今後の手続きなどについても、この段階で確認しましょう。
4.改葬許可証を取得する
現在のお墓がある市区町村役場で「改葬許可証」を取得します。その際、改葬許可申請書・埋葬(納骨)証明書(現在お墓がある墓地管理者から発行)・受入証明書(新しい納骨先の管理者から発行)が必要です。手元供養の場合は受入証明書がないため、自宅で一時保存する旨を申請時に伝えましょう。
5.閉眼供養と遺骨の取り出し
改葬許可証が手元に届いたら、墓石から故人の魂を抜く「閉眼供養」を行います。これは、墓石から故人の魂を抜き、単なる「石」に戻すための大切な儀式です。供養後、石材店や墓じまい専門業者の立ち会いのもと、カロート(納骨室)から遺骨をすべて取り出します。
6.墓石を撤去し、更地に戻す
遺骨を取り出した後、石材店や墓じまい専門業者の手によって墓石を撤去し、墓地を元の更地に戻します。
7.新しい供養先へ納骨する
改葬許可証と遺骨を新しい供養先へ持ち込み、納骨します。
しかし、ご紹介した手続きの流れは、すべての関係者(親族、菩提寺、新しい供養先など)がスムーズに同意した場合の理想的なケースです。
特に菩提寺との関係性によっては、新しい供養先を契約する前に、菩提寺に軽く墓じまいの打診をしておいた方が良い場合もあります。実際に私の知人でも、菩提寺に墓じまいを打診したところ「拒否された」「高額な離檀料を提示された」というケースがありました。
そのため、墓じまいを行う際は、新しい供養先選びと並行して、菩提寺への相談も進めておくことをおすすめします。
墓じまい後の供養方法
遠方であることを理由に墓じまいをした場合は、祭祀承継者(お墓や仏壇などを継承する人)が住むところからアクセスしやすい範囲で新たなお墓を手に入れてそこに埋葬し、ゆくゆくは継承者自身もそこに入る、というケースもあるでしょう。
また、一時的に自宅に置く「手元供養」を選択肢として考えている人もいるかもしれません。しかし、自分が亡くなった後のことも考えると、取り出した遺骨の納骨先を決めた方が良いでしょう。
そこでここでは、「お墓を継ぐ人がいない」もしくは「継がせたくない」という場合の、墓じまい後の供養方法として、永代供養と散骨について解説します。
永代供養
永代供養は寺院や霊園が永代にわたって管理・供養してくれるお墓です。お墓の継承者がいなくても安心できるため、後継ぎのことで悩んでいる方や将来子どもに負担をかけたくない方にに選ばれています。
永代供養には、遺骨をどのように安置するか、またどのような場所に納めるかによって様々なタイプがあります。費用や参拝のしやすさに関わる、主な選択肢を理解しておきましょう。
永代供養とは、寺院や霊園などの管理者が、遺族に代わって永続的に供養と管理を行ってくれる仕組みです。後継ぎがいない方や、将来子どもに負担をかけたくない方に選ばれています。
永代供養には、遺骨をどのように安置するか、またどのような場所に納めるかによって様々なタイプがあります。費用や参拝のしやすさに関わる、主な選択肢を理解しておきましょう。
遺骨の安置方法による分類
永代供養の内容を決める際のポイントのひとつとして「遺骨を他の人のご遺骨と一緒に納めるか、個別で納めるか」という分類があります。選択した方法によっては、遺骨を後で取り出すことは不可能となるため、慎重に検討しましょう。
| 種類 | 特徴 |
| 合祀墓 | 他の人のご遺骨と一緒に、ひとつの場所にまとめて埋葬されます。個別のスペースはなく、後から遺骨を取り出すことはできません。 |
| 集合墓 | 他人のご遺骨と同じ区画に納められますが、一定期間は個別のスペースに骨壺のまま安置されます。期間が過ぎると合祀されるケースが一般的です。 |
| 個別墓 | 契約期間中、専用の小さな墓石や区画に、個別の骨壺で安置されます。期間内は個別に参拝でき、期間満了後に合祀されます。 |
| 納骨堂 | 屋内施設に、個別のスペース(仏壇式やロッカー式など)で安置します。アクセスや天候を気にせずにお参りできるのが特徴です。一定の期間が過ぎると合祀されるケースが多いです。 |
埋葬場所や墓標による違い
上記で紹介した合祀墓・集合墓・個別墓は、遺骨が埋葬される場所の墓標として、墓石が建てられるケースのほか、樹木や草花を墓標とするケースがあります。それぞれの特徴をみていきましょう。
墓石型
従来の墓石に近い見た目や石碑を墓標とする区画に納める形式です。一般のお墓に近い感覚でお参りしたい方に選ばれています。
この形式で永代供養を利用する場合、遺骨の安置方法は「個別墓」や「集合墓」が多い傾向にあります。具体的には、契約した納骨スペース(カロート)に骨壺のまま安置し、契約期間が過ぎると、他の遺骨と一緒に施設内の合祀墓へ移動する流れが一般的です。
もちろん、最初から費用を抑えるために、大きな供養塔の下に他の遺骨とまとめて埋葬される「合祀墓」として提供されているケースもあります。
樹木葬・自然葬型
墓石の代わりに、樹木や草花をシンボル(墓標)とする供養形式。自然の中で静かに眠りたい方に人気があります。
ただし、「樹木葬や自然葬=自然に還る」とは限りません。公園のように整備された霊園などの場合は、草木などがあるエリアに一定期間埋葬された後、掘り起こされ合祀されるケースもあります。
一方で、骨壺自体に自然に還る素材を使用するなど、自然に還る方法で埋葬されるケースもあります。
また、樹木葬というと、おひとりにつき1本の木が植えられる様子をイメージされる方が多いですが、合祀墓や集合墓のシンボルとして数本の木や草花が植えられることもあります。
このように、樹木葬・自然葬にもさまざまな種類があるため、ご自身または故人の希望に合うものはどれか、しっかりと確認しましょう。
散骨
散骨は特定の場所への埋葬ではなく、遺骨を粉末状にして海や山などに撒く供養方法です。「遺骨を粉末状にしなければならない」「散骨が禁止されているエリアがある」など、法的なルールやマナーを守る必要があるため、専門の業者に依頼するのが一般的です。
海洋散骨のほか、宇宙空間への散骨を行っているケースもあります。
墓じまいにかかる費用の内訳
墓じまいにかかる費用は、お布施、離檀料、墓石撤去費用など、複数の項目から構成されています。
【墓じまいに必要な費用の内訳】
- 閉眼供養のお布施
- 離檀料(寺院へのお礼)
- 墓石の撤去・更地化費用
- 新しい供養先の費用
- その他(行政書士への代行費用など)
墓じまいの費用は、お墓の場所や大きさ、選ぶ供養先によって大きく異なります。
墓石の撤去・更地化については、必ず複数の業者から相見積もりを取り、作業内容と費用の内訳をしっかり比較しましょう。ただし、お墓のある霊園・寺院によっては、指定の石材店以外での工事を認めないケースもあります。そのため、まずはその墓地の管理者(寺院など)に確認が必要です。
また、離檀料については、寺院との関係性やお寺の格式によって異なります。金額がわからない場合は、直接住職に確認しましょう。ただし、その際に「おいくら包めばよろしいでしょうか」と聞くのではなく、「他の方はどれくらい包まれていますか」といった聞き方で、丁寧に相談・確認するのが無難です。
墓じまいでのよくあるトラブルと解決策
墓じまいについては、さまざまなトラブルについてもよく耳にします。ここでは、よくある墓じまいトラブルのパターンを紹介します。
親族・家族とのトラブル
相談なく墓じまいを進めてしまうと、「なぜ勝手に決めたんだ」と親族から反発を受けることがあります。こうしたトラブルを避けるために、親族や家族とよく話し合い、墓じまいを行うことに対する理解を得ておきましょう。
寺院・管理者とのトラブル
「離檀料が高額すぎて支払えない」「埋葬証明書を発行してもらえない」など、寺院とトラブルになるケースもあります。
なかでも離檀料は、いわゆる「お気持ち」として納めるものであって法的な根拠はありません。当事者間での話し合いでも納得できない場合は、専門の相談窓口に頼ることも検討しましょう。
相談先としては、国民生活センター(消費者ホットライン)や菩提寺の宗派の総本山、行政書士や弁護士が挙げられます。
また、埋葬証明書を発行してもらえない場合には、埋葬許可証を発行する市町村役場への相談を検討してみても良いでしょう。
費用のトラブル
墓石の撤去や更地化にあたって、見積もりにはなかった追加費用を請求されることもあります。契約前に、何にどれくらいの費用がかかるのかを明確にし、すべてを網羅した見積書を作成してもらいましょう。
墓石の大きさや、場所(道の狭い場所にある、傾斜のある山にある、など)によっても費用が変わるため、必ず現地確認をする業者を選んだ上で見積もりを依頼しましょう。
墓じまいは未来の供養を考える大切なステップ
墓じまいは、故人との関係を絶つことではありません。むしろ、これからの時代に合った供養の形を見つけ、未来につなげるための大切な選択です。
ただし、墓じまいを行う人が増えるのと比例して、各地でさまざまなトラブルが発生しているのも事実です。
よくあるトラブルの内容や、万が一、そういったトラブルに遭遇した際の相談先を知っておくことで、スムーズに墓じまいを進めましょう。