今回は、私の父(70代)が友人から聞いた、家族葬にまつわる体験談をお話しします。「家族葬なら簡単で負担が少ない」と思われがちですが、実際はそう単純ではなかったようです。
家族葬を選んだ理由と当初の想い
亡くなられたのは、父の友人のお母様(80代)。その方が住まれていたのは、人口120人ほどで半数近くが60代以上という集落です。
嫁いでから60年以上その土地で過ごしていたこともあり、地域の人との交流もさかんだったようです。
故人は生前、「葬式は家族だけでいい」と希望していたそうです。
家族としては、
- 故人の意向を尊重したい
- 身内だけで静かに送りたい
- 費用や準備の負担を軽減したい
といった思いもあり、家族と本当に近い親族のみで葬儀を執り行うことに。
そして葬儀がすべて済んでから、地元新聞のお悔やみ欄に、葬儀は済んだ旨を掲載したそうです。
想定外の弔問客
お悔やみ欄への掲載のほか、親族にはお悔やみ辞退を伝えるハガキも出されていたそうです。
しかしそれでも、長年の近所付き合いがあったご近所さんや親族が、次々と自宅に弔問に訪れるように。
大勢が訪れるわけではなかったようですが、それぞれがバラバラに弔問に訪れるため訪問時間が読めない上、一人ひとり個別に対応する必要があったため、その対応にかなりの時間を割いたそうです。
しかも、香典をいただくケースもあるため、お返しの品を常備することに。
さらに、いつ誰が来るか予測できないため、葬儀後しばらくは、常に来客に備えて準備が必要な状態になったそうです。
結果的に、家族の負担が増えてしまった
故人の意向を尊重するという意味もありましたが、それに加え、葬儀にまつわる準備や費用の負担を減らしたいと思って選んだはずの家族葬。しかし、葬儀後の対応は想像以上の負担になったと言います。
具体的には、下記のようなことが負担になったそうです。
具体的な困りごと
- いつ誰が来るかわからず、留守にするのが気が引ける
- 突然の訪問に備えて、身なりを整えておく必要がある
- 香典返しの品を調達し、常備しなければならない
- 同じ説明を何度も繰り返すことに精神的疲労を感じる
四十九日を終える頃には弔問も落ち着いたそうですが、「面倒に感じても、葬儀で一度に来てもらった方が、対応やお返しなどが楽だった」というのが、ご家族の率直な感想だったそうです。
参列できなかった人々の心境
弔問に訪れた人々も決して悪気があったわけではなく、故人とお別れのあいさつをしたかっただけだったり、長年お世話になった感謝の気持ちを伝えたかったのかもしれません。むしろ、突然の訪問で遺族に負担をかけてしまうことに気づかず、純粋な弔意から行動されていたのでしょう。
今回の話とは別件ですが、家族葬を行った結果、地元の方が「葬式に呼ばれなかった」ことに対して不快感を示された、というケースもあるようです。
特に地方の密接なコミュニティでは、
- 長年の近所付き合い
- 故人との思い出や恩義
- 地域の慣習や義理
といった要素が複雑に絡み合い、家族の意向だけでは割り切れない部分があるのかもしれません。
そのため、葬儀の形式を決める際には故人・家族の意向のほか「地域コミュニティの結束の強さや、故人の交友関係」も考慮する必要があるかもしれません。
コロナ禍の影響で少しだけ変化が……?
コロナ禍では、感染防止の観点から、家族葬や弔問辞退が一般的になっていました。
実際に私の親戚がこの時期に葬儀を行ったのですが、葬儀の準備が「本当にラクだった」そうです。
この親族の家では、亡くなったおじいさんの兄妹と家族のみで葬儀を行っていました。感染予防の観点から、お斎(おとき・葬儀後に和尚さんや参列者に食事やお酒を振る舞い故人を偲ぶ)は行わず、和尚さんにお膳料を包んだそうです。
そして在宅でおばあさんの介護をされていたことを理由に「感染予防のため」として弔問を一切断っていました。
この葬儀の形に周囲の理解が得られたのはコロナだったから、とその親戚は話していました。
実際、コロナが落ち着いてからは、再び従来の形式で行う家が私の地元ではほとんどです。地域にもよるとは思いますが、特に地方では、昔からの慣習を重視する傾向が依然として強いように感じています。
体験談を聞いて考えを改めた私
私も以前は「家族葬、いいかもな……」と思っていました。葬儀に関する一連の負担が少なそうに見えていたからです。
しかし、今回ご紹介した体験談を聞いて考えを改めました。
私が想定しているのは自分の両親を見送る際のことです。
2人とも人づきあいがとにかく多く、近所づきあいや親戚づきあいはもちろん、婦人会や老人クラブ、働いていた頃の同僚との交流なども盛んです。
現状では、もし家族や一部の親戚のみで葬儀を行った場合、その後の弔問対応に追われることが目に見えています。もし両親が、交流している方々よりもずっと長生きすれば状況は変わるかもしれませんが、現実的な考えとは言えないでしょう。
そのため今のところは、私の両親の場合は、昔ながらの葬儀の方が良いんだろうな、と考えています。
後悔のない葬儀にするために
今回は家族葬にまつわる体験談を紹介しました。
葬儀の形式を選択する際は、費用・準備にかかる負担だけに目を向けず、故人の近所づきあいの密度や長年のお付き合いがある方々がどのくらいいるかなどを踏まえた上で、検討することをおすすめします。
故人の意向を尊重しつつ、地域性や人間関係も考慮した葬儀選びが、結果的に家族の負担軽減につながるのかもしれません。