「物を大切にする」ことは美徳とされますが、時として遺される家族にとって大きな負担となることがあります。
今回は、80代で亡くなった祖母の遺品整理を通じて経験した、現実的な課題とその教訓についてお話しします。
「もったいない」の気持ち
私の祖母は、とにかく物を捨てない人でした。
30代で夫を亡くし、女手一つで母を含む四姉妹を育て上げた祖母。
お金に苦労した時期があったこと、そして世代特有の「もったいない精神」から、よほどのことがなければ物を捨てることはありませんでした。
1回目の片付け〜農機具と古い家具〜
転機は、祖母が畑で熱中症になり入院したことでした。その後認知症が進み、デイサービスを利用するようになったタイミングで、叔母の提案により1回目の片付けが始まりました。
対象は小屋と蔵。
祖母が農作業を行うことはもうないだろうということで、以下のようなものを処分しました。
- 壊れた農機具
- 大量の稲作用の苗箱や米袋
- 使わなくなった学習机
- 何十年も使っていない古い布団2〜3組
これらは軽トラック4〜5台分という膨大な量になりました。基本的な農作業道具(クワやスコップなど)だけを残し、あとはすべて廃棄処分となりました。
手つかずの衣類問題
しかし、本当の問題はここからでした。田舎の一軒家には、祖母が購入した大量の衣類が複数の部屋に山積みになっていたのです。
祖母の認知症はさらに進行し、高血圧なども原因で体調を崩すことが増え、最終的に介護施設へ入居することになりました。車椅子での生活となり、介助を受けながらの着替えが必要になったため、必要な服の条件も以下のように変わりました。
- ゆったりしたサイズ
- 前開きタイプ
- 小さなボタンは避ける など
皮肉なことに、膨大な量の服を持っているにも関わらず、その時の祖母に適した服はほとんどなく、叔母は新しい服を頻繁に購入する必要がありました。
処分への抵抗と家族間の葛藤
この頃、叔母や母を含む姉妹たちの間で「もう着ない服は少しずつでも処分しては?」という話が何度か出ました。しかし、祖母と同居していた叔母が処分を強く拒みました。理由は「まだ生きているから」。
当時の祖母には既に判断力が残っておらず、家族の顔も分からない日が多くありました。山積みになっている服から着たいものを選ぶことはもうありません。それでも、叔母の心境を尊重して、衣類の片付けは見送られました。
祖母の死後〜それでも進まない整理〜
その後、祖母は介護施設と病院を行き来して5年以上が経った後に亡くなりました。しかし、一周忌が過ぎるまで遺品整理は手つかずのままでした。
その後、姉妹間での説得もあり、徐々に片付けが始まりました。
一度。姉妹で集まり軽トラック3台分にもなる不用品を運び出しましたが、それでもまだまだ物はあります。
ときどき叔母が、片付けをしているようですが、「気が向かないから進まない」とよくぼやいています。
現在の状況〜開かずの間〜
「気が向かないから進まない」の最大の原因は、6畳ある「開かずの間」です。
そこには3〜4段に積み重なった衣装ケースがびっしり置いてあります。そして衣装ケースのなかには、未開封のまま一度も袖を通すことのなかった衣類がぎっしりと入っているのです。
一度は叔母も整理に取りかかろうとしましたが、あまりの量に呆然として断念したそうです。
しかも未開封のものばかりのため、捨てるのをためらってしまうのだとか。
それなら誰かが着ればいいのでは、と思うところですが、体型的に祖母の服を着られそうなのは叔母だけ。しかし、デザインが古い、服が重いなどの理由で、叔母が着たいと思う服は一着もなかったそうです。
「捨てることに抵抗があるなら……」と、服専用のリサイクルボックスや寄付なども提案しましたが、「やる気が出たらね」と言われるだけで、実行される気配はありません。
根本的な問題〜困らないから片付けない〜
取り掛からない最大の理由は「あっても困らないから」でしょう。
祖母の遺品で一部屋が埋まっていても、叔母の生活に直接的な支障はありません。しかし、その叔母ももうすぐ70歳。このままでは祖母の遺品に叔母の遺品も加わって、次の世代に引き継がれることになりそうです。
私たち世代ができること
母の実家の様子を見ていて学んだのは【『置く場所があるから置く』という状況は、問題を先送りにするだけ】ということでした。そして、物が多いと、確実に遺された家族に大きな負担をかけることになるという現実を、改めて感じました。
この経験を踏まえ、私は両親に「少しずつでいいから、要らないものは手放しておいてもらえると助かる」と話しています。そして何より、自分自身も定期的に持ち物を見直すようになりました。
終活における片付けは、遺される家族への最後の思いやりかもしれません。「いつか」ではなく、今から少しずつ始めることの大切さを、祖母の遺品整理を通じて強く感じています。
この体験談が、同じような状況にある方々の参考になれば幸いです。